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広島高等裁判所岡山支部 昭和34年(ラ)24号 決定

抗告人 福島昇治郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙の通りである。

よつて按ずるに、客観的にみて仮処分の被保全権利の実現が困難である場合には経済的価値の保全-金銭的補償-に転換することによつてもその目的が達成せられる性質のものであり、且主観的にも仮処分債権者が本来の請求権自体の実現を強く固執しない場合であつて、しかもその仮処分の目的物につき、滅失毀損の虞があつたり、著しい価額の減少を生ずる虞があつたり、又はその貯蔵につき不相応な費用を生じたりなどして経済的価値の維持が困難な場合には、仮差押に関する民訴第七百五十条第四項を準用して、目的物の換価をすることができるものと解するところ、本件仮処分の被保全権利が客観的に金銭的補償によつてもその目的が達成せられる性質のものであることは、原決定の説示している通りであり、主観的にも本件仮処分債権者である抗告人が本来の請求権自体の実現を強く固執しない場合であることは、抗告人自身が本件仮処分の目的物の一部である伐倒木について昭和三十二年四月二十日岡山地方裁判所津山支部に対し換価命令の申請をし、同月二十二日その旨の命令を得ていることが本件記録により明らかであることよりしてこれを認定できるし、且本件仮処分の目的物であり、本件換価命令の目的物である立木は、昭和三十五年三月二日までに伐採しないときは、仮処分債務者が有すると主張するその所有権を失うに至るものであり、しかも毎年十二月末から二月末頃までは降雪があつて、本件立木の伐採が不可能であることは、原審における抗告人本人の供述によつても窺知できるところであるから、物理的に滅失する訳ではないけれども、現在これを換価しなければ所謂仮処分の目的物が滅失する虞がある場合に該当するものと判定すべきものであることは、原決定の説示している通りである。その換価の時期が本年春が適当か、本年秋が適当かということは、その換価の価額に多少の差違が生ずることがあつても、右判定を左右するに足りない。従つて本件換価命令は民訴第七百五十六条によつて準用せられる同法第七百五十条第四項に規定せられている場合に該当するものということができる。而して右換価命令は申立によりなされるものであるが、仮処分債務者においてもその申立権があるか否かを按ずるに、右七百五十条第四項には、単に「申立に因り」と規定してあるのみであつて、申立権者を限定していないばかりでなく、民法第四百九十七条の規定の趣旨や、換価を必要とする事情が生じたにもかかわらず債権者が換価命令の申立をしない限り、債務者は民訴第七百五十九条の仮処分取消の申立をする以外、ただ漫然と拱手傍観して目的物の滅失毀損、又は著しい価額の減少を甘受しなければならないということは、余りにも債務者にとつて酷であり、公平の理念にも反するものである点等を勘按し、債務者が仮処分の取消を求め得る理由は必ずしも換価命令を申立て得る理由ではなく、又債権者が換価命令を申立て得る理由は必ずしも債務者にとつて仮処分の取消を申立て得る理由でもないこと等よりして、仮処分債務者も、仮処分取消申立の方法があるにしても、債権者同様換価命令の申立権があるものと解するのを相当とする。

よつてこれと同旨の理由により抗告人の異議申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 高橋英明 浅野猛人 小川宜夫)

抗告理由

一、原裁判所は仮処分物件の換価命令の申立は仮処分債務者も申立の権能ありとされたが債務者は民事訴訟法第七五九条の特別の事情による取消によるべきで債務者に於いて換価命令申立の権能はないものと思料す(昭和九、二、八大審院決定民集一三巻一七九頁参照)

二、相手方(換価命令申立人)木原豊治郎は換価命令申立の理由として抗告の趣旨記載の前記仮処分事件の物件中別紙目録の立木は地上権の期間が(五〇年)昭和三十五年三月二日を以て満了するので昭和三十四年中に伐採しないと右立木は土地の所有者西粟倉村の所有に帰しその損害は甚大である旨主張し原裁判所はその申立を維持されたのである然しながら土地に生存する杉檜立木の成長は一ケ年を通じ四月より十月に至る間が最成長期であり伐採期は九月十月が最適期で五月六月切りのものは材質も低下し剥皮も秋切りに比し五月六月ものは春皮と称し格安であることは既に呈示した証明書(甲第二号証の一、二、三参照)の通りであるし加之立木の価格は上昇の状勢にあり五月以後夏分迄の伐採は木材建築の時期でない関係上値段は軟調勝であるので概ね不利であり今から伐採剥皮せば杉の場合材質に深い縦割(飛裂)が出来ることは広知の事実である仮処分の目的物につき著しき価格の減少を生ずる恐あるとき又はその貯蔵につき不相応を生ずべきときはそのものを競売して売得金を供託すべき旨を執行吏に命ずることが出来るが(民事訴訟法第七五〇条第四項参照)本件の場合は右に該当しない即ち

イ、前記の通り地上権設定の期限は昭和三十五年三月二日迄あり一年前の現在に於て右様の処分に出ること自身が不法である

ロ、前記主張の通り成長価格材質維持の点からして現在の換価はその必要がない

然るに原決定は抗告人(換価命令被申立人)の換価命令取消を求むる旨の異議申立を却下したのは不当でありますので民事訴訟法第五五八条により本申立に及ぶ次第である。

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